院長先生のブログ
重症小児患者における最適な目標酸素投与量は?
これまで重症小児患者に対して、酸素投与量を制限することなく酸素投与を実施していましたが、過剰な酸素投与は小児患者にも有害となり得るとされており、重症小児患者における最適な目標酸素投与量は明らかになっていませんでした。
酸素投与を制限した方が標準療法と比較して、予後が良いのかについて検討した論文( Lancet . 2023 Dec 01; pii: S0140-6736(23)01968-2.)です。
英国15ヵ所のPICUを対象とした多施設共同非盲検無作為化対照試験です。
緊急入院して侵襲的換気療法を受けた修正在胎期間38週~16歳未満の小児を、ウェブベースシステムを用いて収集し、制限的酸素投与群(目標SpO2値:88~92%)および非制限的酸素投与群(目標SpO2値:>94%)に1対1の割合で無作為に2群に割り付けました。
主要アウトカムは、無作為化後30日時点の臓器支持期間で、30日目またはそれ以前の死亡を最悪のアウトカム(臓器支持31日間と同等のスコア)とするランクベースのエンドポイントであり、それ以外の被験者(生存者)には、臓器支持を受けた暦日に応じ1~30のスコアを付けて評価しました。
主要な効果推定値は確率指数(PRI)で、0.5超は無作為に選ばれた患者について、制限的酸素投与のほうが、非制限的酸素投与に比べて優れている確率が50%超であることを示すものとしました。
同意が得られたすべての被験者を対象にITT(intention-to-treat)解析を実施しました。
その結果、2020年9月1日~2022年5月15日に2,040例の小児患者が上記2群に無作為化され、そのうち1,872例(92%)から同意が得られました。制限的酸素投与群は939例(927例中528例[57%]が女子、399例[43%]が男子)、非制限的酸素投与群は933例(920例中511例[56%]が女子、409例[45%]が男子)でした。
最初の30日間の臓器支持期間または死亡の発生は、制限的酸素投与群で有意に低かった(PRI:0.53、95%信頼区間[CI]:0.50~0.55、ウィルコクソン順位和検定(Wilcoxon rank-sum test)のp=0.04、補正後オッズ比:0.84[95%CI:0.72~0.99])ことが分かりました。事前に規定した有害事象は、制限的酸素投与群939例中24例(3%)、非制限的酸素投与群933例中36例(4%)で報告されました。
制限的な酸素飽和度目標値(SpO2:88~92%)を取り入れることで、PICUに入室する重症小児患者のアウトカムが改善する可能性が示されました。
2025年はガイドライン改訂の年でもあります。
このような知見が「蘇生後ケア」にどのように反映されるのか、楽しみですね。 (小児科 土谷)