院長先生のブログ
高い枕と脳卒中

最近、殿様枕症候群という面白い病名を見かけたので調べてみました。
脳卒中の原因の一つである特発性椎骨動脈解離は枕が高いほど発症割合も高く、固い枕では関連が顕著であることを立証したことで、殿様枕症候群(英語名:Shogun pillow syndrome)と呼んでいるみたいです。
これに関連して、「高い枕の使用は特発性椎骨動脈解離の関連があるか」「どのくらいの割合の特発性椎骨動脈解離が高い枕に起因するのか」について検討した論文(Eur Stroke J. 2024 Jan 29:23969873231226029. doi: 10.1177/23969873231226029.)を紹介します。
国立循環器病研究センターで、2018年~2023年に特発性椎骨動脈解離と診断された症例群と、同時期に入院した年齢と性別をマッチさせた脳動脈解離以外の対照群を設定し、発症時に使用していた枕の高さを調べました。高い枕の基準は、12cm以上を高値、15cm以上は極端な高値と定義しました。同時に、枕の硬さや首の屈曲の有無についても調査しました。高い枕の使用と特発性椎骨動脈解離の発症との関連を調べるとともに、起床時発症で軽微なものも含めて先行受傷機転のない、臨床的に高い枕の使用が発症原因として疑わしい患者さんの割合も調査しました。
症例群53名と対照群53名を調査した結果、高い枕の使用は症例群が対照群より多く、12cm以上の枕では34%対15%、オッズ比22.89倍、15cm以上の枕では17%対1.9%、オッズ比10.6倍で、高い枕の使用と特発性椎骨動脈解離の発症には関連が見られました。
枕が高ければ高いほど、特発性椎骨動脈解離の発症割合が高いことも示唆されました。この関連は枕が硬いほど顕著で、柔らかい枕では緩和されました。
高い枕と特発性椎骨動脈解離の関連について、首の屈曲が媒介する効果は全体の3割程度で、寝返りなどの際の頸部の回旋が合わさって、発症に関連する可能性が示唆されました。
起床時発症で他に誘因のない、高い枕を使っていた特発性椎骨動脈解離の患者さんは、症例群全体の約1割を占めていました。
以上から、「高い枕の使用」が特発性椎骨動脈解離の発症に関連があり、特発性椎骨動脈解離の約1割が高い枕の使用に起因し得ることが示されました。
「枕の使用」は容易に修正可能ですし、こういう知見は脳卒中の予防につながり得るので重要です。
それにしても、昔の人は「寿命三寸楽四寸」とはよく言ったもので、感覚的に高い枕の危険性について分かっていたのでしょうかねw (小児科 土谷)