院長先生のブログ
ワクチンで防げる病気(VPD)
はじめに ~「ワクチンで防げる病気」(VPD)とは?
「ワクチンで防げる病気」のことをVPD(Vaccine Preventable Diseases)と呼びます。
VPDは、子どもたちの命にかかわる重大な病気で、残念ながら今の日本でも、毎年多くの人々がこれらの病気に感染して苦しんだり、後遺症を持ったり、死亡したりしています。
世界中に数多くある感染症の中で、ワクチンで防げる病気(VPD)は極僅かですが、VPDは子どもたちの健康と命を脅かす重大な病気でもあります。
せめて、防げる病気だけでも予防して、大切な子どもたちの命をしっかり守りましょう!
ここでは、予防接種の大切さを皆様に理解して頂くために、代表的な子どもの「ワクチンで防げる病気」を幾つか紹介させて頂きます。
肺炎球菌感染症
菌が何らかのきっかけで血液中に入り込むと、肺炎や菌血症、敗血症、細菌性髄膜炎などの重い合併症を起こすことがあります。特に、細菌性髄膜炎を起こした場合は、約2%のお子さんが亡くなり、難聴、精神発達遅滞、四肢麻痺、てんかんといった重い後遺症を残すことがあります。これまで細菌性髄膜炎の患者さんに何度も遭遇したことのある自分としては、もう出会いたくない病気の1つです。
そんな肺炎球菌感染症を予防するため、2010年に肺炎球菌ワクチン(7価)の接種が始まりました。7価とは7タイプという意味で、90種類以上ある肺炎球菌のタイプのうち、特に細菌性髄膜炎や菌血症をおこしやすい 7 種類のタイプのことを指します。このワクチン接種が始まると、期待した通りに7種類のタイプが原因となる髄膜炎や菌血症は減少しました。その一方、この7種類のタイプ以外のタイプが主流になってきてしまいました。その後、少しでも多くのタイプをカバーするために13価、15価、20価のワクチンが順に開発され、現在20価のワクチンが使用されています。接種開始時期によって使用しているワクチンは異なりますが、最後の4回目まできちんと接種することが大切です。重い感染症から子どもを守るために忘れずに接種しましょう。
インフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b;通称ヒブ)感染症
インフルエンザ菌b型(ヒブ)の紛らわしい注意点は、冬に流行するインフルエンザウイルスとは全くの別物だということです。主に気道の分泌物によって感染を起こし、症状が無いまま菌を保菌して日常生活を送っている子どもたちも多くいます。この菌が何らかのきっかけで血液中に入り込むと、肺炎や菌血症、敗血症、細菌性髄膜炎、化膿性関節炎などの重篤な疾患を起こすことがあります。
ヒブは肺炎球菌と同等かそれ以上に怖い細菌で、かつては細菌性髄膜炎の原因菌のトップでしたが、ヒブワクチン導入後、ヒブによる細菌性髄膜炎の患者数は激減し(ほぼゼロ)ています。この優れたヒブワクチンを接種しない理由はありません(2024年4月以降に接種を開始した場合は5 種混合ワクチンに含まれています)。
ヒブ感染症(ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型感染症) – Know VPD!
百日咳
軽度の感冒症状から始まり、特徴的な激しい咳発作が続き、回復に2~3か月かかります。時に、肺炎や脳症を起こし、後遺症を残すこともあります。0歳児(生後3か月未満)が罹患すると、無呼吸発作などを呈し重症化しやすく、ときに死亡する場合もあります。
近年、年長児や成人での感染例が増加しており、乳児への感染源として注意が必要です。就学以降の百日咳の予防のために、二種混合ワクチンに代わって三種混合ワクチンを任意接種で接種することも可能です。
四種混合(DPT-IPV)ワクチン・三種混合(DPT)ワクチン・二種混合(DT)ワクチン- Know VPD!
麻疹(はしか)・風疹
麻疹は極めて感染力が強く、重症化することもある感染症です。
発熱後、3-4日して全身に赤い発疹が出現し、高熱が続きます。肺炎や脳炎など重い合併症を起こすため、死亡したり、後遺症を残したりする感染症です。さらに、感染後数か月間は免疫機能が低下するため、回復しても別の感染症(肺炎、中耳炎、気管支炎など)に罹患しやすくなります。
風疹は麻疹より症状は軽く、感染者の約15-30%は無症状です。症状としては、発熱、発疹、リンパ節腫脹が特徴的です。
要注意ポイントは、妊娠20週頃までの妊婦への感染です。胎児にも感染してしまい、障害のある先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれる可能性があります。
近年、特に成人男性を中心に流行が認められることがあり、妊婦や赤ちゃんへの感染に注意が必要です。
日本脳炎
ウイルスに感染したブタの血液を吸った「蚊」が人間を刺すことで感染する病気で、人から人への感染はありません(ウイルスに感染したブタは日本の広い地域で毎年確認されています)。
日本を含むアジア地域で広く認められる感染症で、感染者の100-1000人に1人程度が発症します。脳炎を起こすと、致命率は20-40%と高く、回復しても約半数に後遺症が残ってしまいます(とくに小児では重い障害が残るリスクが高い)。
1990年代以降、患者数は高齢者を中心に毎年約10人程度ですが、中には乳児の発症例も報告されています。
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)
発熱や耳下腺の腫れが特徴的ですが、無菌性髄膜炎や難聴、精巣炎・卵巣炎など、合併症が多い感染症としても知られている感染症です。
合併症の中でも、おたふく難聴の頻度は1000人に1人とも、200-400人に1人とも言われており、おたふく難聴からの完全回復は非常に難しいとされています。勤務医時代、おたふく難聴のお子さんを数名担当させて頂きましたが、完全回復例は1人もおられませんでした。
ワクチンで防げたはずの病気による後遺症を自分のお子さんが一生背負い続けることを想像してみてください。「そんな合併症があるって知っていたら自費でも打っていたのに」と思うはず。
おたふくかぜワクチンは任意接種ですが(2025年3月現在)、将来後悔しないために、一度ご家族できちんと話し合ってみると良いでしょう。
HPV感染症(子宮頸がん)
HPV(ヒトパピローマウイルス)は多くの人が感染するありふれたウイルスです。多くの場合は感染しても自然に排除されますが、一部は感染が持続して子宮頸がん等を発症するとされています。
子宮頸がんは20-30代女性の命を奪うとても怖いがんです。ワクチン接種でHPV感染を防ぐとともに、子宮頸がんの予防のために定期的な検診も行いましょう。
HPVワクチンの効果は各国の報告からも既に証明されています。HPVワクチンの導入当初、「さまざまな副反応が出る」と一部のマスコミによって報道されましたが、その報告された症状は、接種していない子でも同じ割合で認められることがその後の調査で判明しています(子宮頸がんワクチンが原因ではなかったということ)。お子さんの将来のために、是非接種をご検討ください。
ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がんなど) – Know VPD!
HPVワクチン(子宮頸がんなどの予防ワクチン)- Know VPD!
代表的なVPDを幾つか取り上げさせて頂きましたが、他にも多くの病気がVPDには含まれます。VPDに関する詳細な情報は下記HPをご参照ください。