3月19日に肥満とがん死亡の関係性についてふれました。

今回はその「理由」に関する論文を紹介します。

Multiomics reveals persistence of obesity-associated immune cell phenotypes in adipose tissue during weight loss and weight regain in mice | Nature Communications

 

過食による肥満では、脂肪組織で慢性的に炎症が起きることがインスリンを介した糖代謝機構に悪影響を与えることが分かっています。

このことを検証するために、マウスで過食あるいは食事制限によって体重増加、体重減少を誘導し、これに伴って起きる脂肪組織での免疫細胞の変化とその全身的な影響について、いくつものタイムポイントで経時的に調べました。

 

結果の概略は以下の通り。

  1. 食事制限による体重減少によってインスリン抵抗性は改善するが、以前の肥満時に既に誘導されていた脂肪組織中の免疫細胞の異常は改善しなかった(=体重減少により、代謝異常は改善されても、免疫異常は容易には改善されない)。
  2. この状態で過食によって肥満が再度誘導されると、免疫細胞に強い変化が起きて炎症が以前よりも悪化していた(=体重を一時的に落としても、再度肥満になると、脂肪組織での炎症が以前より進み、状態が悪化する)。
  3. さらに、脂肪組織での炎症が悪化すると、生体防御に重要な役割をするT細胞や2型自然免疫細胞の機能が低下する(=ウイルス感染に対する防御力が弱くなり、がんの発生を止めにくくなる)。

 

今回の結果から、脂肪組織に存在する免疫細胞が過食による刺激を受けて炎症を起こし、それが収束せずに継続。次の過食の機会に免疫細胞がさらに刺激を受けて炎症が増幅されることがわかりました。

今回の研究はマウスでの実験でしたが、同様のことがヒトでも起きているものと推測されます。

 

これまでの報告から、ダイエットからのリバウンドを繰り返すことで、糖尿病や心血管疾患の発症リスクが上がり、やがて、ウイルス感染に弱くなり、がん発症のリスクが上がることが分かっています。

過食→体重制限→過食→体重制限のループが健康に良くない理由の一つはここにあるみたいです。

 

肥満の人はダイエットを試みても、約6割の人が数年後にリバウンドを起こしてまた肥満状態に戻ると言われていることから、日々の節制が重要であることは言うまでもありません。自分も気をつけないといけませんねw (小児科 土谷)