マイクロ・ナノプラスチック(MNPs)汚染は世界的に重大な環境問題です。
近年、ヒトへの直接的な健康被害も明らかになっています。そこで今日はマイクロ・ナノプラスチック(MNPs)と健康に関する話題(eBioMedicine. 2024 May;103:105118.)です。
患者30人の3つの部位(脳動脈,冠動脈,下肢深部静脈)から採取した血栓中のMNPsの濃度、ポリマーの種類などを検討した中国からの論文です。
MNPsの同定と濃度の定量には熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析法(Py-GC/MS)を用いました。
さらにレーザー直接赤外分光法(LDIR)と走査型電子顕微鏡法(SEM)を用いてMNPsの物理的性質を分析しました。
虚血性脳卒中、心筋梗塞、深部静脈血栓症の患者から得られた血栓の80%(24/30)でMNPsが検出され、濃度の中央値はそれぞれ61.75,141.80,69.62μg/gでした。MNPs検出群のD-ダイマー濃度はMNPs未検出群より有意に高値でした(8.3±1.5μg/L vs 6.6±0.5μg/L,p<0.001)。
10種類ポリマーのうち、ポリアミド66(PA66)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)が同定されました。LDIR分析ではポリエチレンが優勢で全体の53.6%を占め、平均直径は35.6μmでした。LDIRとSEMで検出されたポリマーの形状は不均一でした。
虚血性脳卒中に限定すると、MNPs濃度と血栓の大きさに関連はありませんでした。
統計的には有意ではないものの、後方循環の濃度は前方循環より高い傾向を示しました[131.1μg/g対60.68μg/g]。濃度が高い患者ではNIHSSスコアは有意に高値でした(22.0±7.5 vs 12.6±3.5,p<0.05)。
さらに、線形回帰分析によりNIHSSスコアと血栓中濃度との間に正の相関があることが示されました(調整β=7.72,95%CI:2.01-13.43,p<0.05)。
以上から、MNPsは心血管系疾患の新たな危険因子になりそうです。
ペットボトル1本にMNPsは約24万個(9割がナノプラスチック)含まれることを考えると、由々しき事態です。今後、社会全体で取り組むべき問題となりそうですね。 (小児科 土谷)