小児期逆境体験(adverse childhood experience;ACE)は成人後のメンタルヘルスの問題につながる可能性が指摘されていまいたが、その長期的影響について検討した日本人を対象とした研究( Scientific reports. 2024 May 26;14(1);12015. pii: 12015.)を紹介します。
「日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS研究)」の、2022年9月のオンライン調査データを用いて、ACEと成人期のメンタルヘルスとの関連を検討しました。対象者は18~79歳とし、経験したACEの種類と数について、15項目の質問票「ACE-J」により評価しました。「K6」という尺度を用いて、心理的苦痛を評価しました(合計得点が13点以上だった人を心理的苦痛が強いと判定)。
その結果、解析対象は計2万8,617人(平均年齢48±17.1歳、男性48.9%)で、15のACEのうち1つ以上のACEを経験していた人の割合は75%に上っていました。
経験割合が多かったACEは、心理的ネグレクト(38.5%)、貧困(26.3%)、学校でのいじめ(20.8%)でした。経験したACEの数は平均1.75±1.94であり、14.7%の人が4つ以上のACEを経験していました。女性は男性と比べ、ACEの数が有意に多く(1.85対1.65)、性的虐待の経験割合が有意に高かった(6.9%対1.8%)ことが分かりました。年齢層別に、貧困の経験割合は50~64歳で29%、65歳以上で40%、学校でのいじめは若年層で21~27%、65歳以上で10%でした。
また、心理的苦痛が強いと判定された人は全体の10.4%で、ACEの経験数が増加するほど心理的苦痛が強い人の割合が高まり、18~34歳かつACEの数が4つ以上で、その割合が最も高かった(40.7%)ことが分かりました。ACEの数が同じ場合、若年層は高齢層と比較して心理的苦痛が強い人の割合が有意に高かったことが分かりました。
ロジスティック回帰分析を用い、背景の差(年齢、性別、婚姻状況、世帯収入など)を統計学的に調整して検討したところ、全てのACEは、心理的苦痛が強いことと有意に関連していることが分かりました。具体的なオッズ比(95%信頼区間)は、学校でのいじめが3.04(2.80~3.31)、慢性疾患による入院が2.67(2.29~3.10)、自然災害が2.66(2.25~3.13)でした。また、ACEの数が4つ以上の人では、1つもない人と比較したオッズ比が8.18(7.14~9.38)に上ったことが分かりました。
以上から、小児期逆境体験はメンタルヘルスに長期的な悪影響を及ぼしていたことが分かりました。
将来を担う子どもたちの逆境体験を減らす為に、我々に何が出来るのか? 真剣に考えなければなりませんね。 (小児科 土谷)


