先週末、児童虐待関連の学会に出席してきたこともあり、虫歯の有病率と虐待の関連を調べた新潟からの論文(BMC public health. 2024 May 18;24(1);1345. pii: 1345.)を紹介します。

2015年1月~2019年7月に新潟県内の児童相談所に一時保護された2~18歳の子どもで、一時保護から2週間以内の534人(平均年齢10.4±3.85歳、男児308人、女児226人)を対象とする横断研究を実施しました。新潟大学の小児歯科医師と歯科衛生士が、歯科検診および歯の健康行動に関する問診を行いました(虐待に関するデータは児童相談所から入手)。
その結果、対象者のうち323人(60.5%)が、虐待を理由に一時保護を受けていました。
虐待の内訳は、身体的虐待が176人(54.5%)で最も多く、ネグレクトが72人(22.3%)、心理的虐待が68人(21.1%)、性的虐待が7人(2.2%)でした。
児童相談所の子ども1人当たりの虫歯(未処置の虫歯+処置済の虫歯)の平均本数は、2~6歳、7~12歳、13~18歳の全ての年齢層で、2016年の厚生労働省の「歯科疾患実態調査」の結果と比較して有意に多かったことが分かりました。
児童相談所の子どもで、虫歯の有無と虐待の有無との関連性について調べたところ、未処置の虫歯、処置済の虫歯、未処置の虫歯+処置済の虫歯のいずれを検討した場合も、年齢層にかかわらず、虐待との有意な関連は認められませんでした。
次に、虐待の種類別に検討したところ、7~12歳の虫歯(未処置の虫歯、未処置の虫歯+処置済の虫歯)の有無と虐待の種類に有意な関連が認められ、ネグレクトの場合に虫歯の有病率が高いことが示されました。
未処置の虫歯の本数は、身体的・性的虐待(平均1.5本、中央値0.0本)と心理的虐待(平均1.5本、中央値0.0本)に比べ、ネグレクト(平均3.4本、中央値2.0本)の方が有意に多かったことも分かりました。未処置の虫歯+処置済の虫歯で比較しても同様に、身体的・性的虐待(平均2.3本、中央値1.0本)および心理的虐待(平均2.1本、中央値0.0本)よりも、ネグレクト(平均4.1本、中央値3.0本)で有意に多いことが明らかとなりました。
以上から、虐待の種類としてネグレクトを受けた子どもで虫歯の有病率が高いことが分かりました。
一時保護に至った理由が虐待かどうかにかかわらず、児童相談所の子どもは全国平均と比較して虫歯の有病率が高く、歯磨きの頻度は低いようです。
いわゆる「デンタルネグレクト」に関する報告でした。地元新潟からの報告とあって、虐待診療における歯科診察の重要性を改めて認識させて頂きました。(小児科 土谷)


