以前実施されたAntenatal Late Preterm Steroids(ALPS)試験は、妊娠34~36週における出生前のベタメタゾン投与が早産児の短期呼吸器合併症の発症率を有意に低下させることを明らかにしました。
今回はベタメタゾン投与後の長期的な神経発達アウトカムへの影響についての報告(JAMA. 2024 Apr 24; pii: e244303.)です。
上記ALPS試験(以下、親試験)では、妊娠34週0日~36週5日で後期早産(36週6日までの出産)リスクの高い母親を、ベタメタゾン(12mg)群またはプラセボ群に割り付け、ベタメタゾンは筋肉内投与しました(24時間経過後も出産しなかった場合は2回目を投与)。
本追跡試験では、2011~16年に国立小児保健発達研究所Maternal-Fetal Medicine Units(MFMU)ネットワークの13施設のうち1施設に登録され、追跡試験に同意した母親から生まれた6歳以上の小児を対象として、2017年12月~2022年8月に登録し、前向きに調査しました。
主要アウトカムは、Differential Ability Scales, 2nd Edition(DAS-II)の全般的概念化能力(General Conceptual Ability:GCA)スコアが85点未満(平均より1 SD低いことを示す)の小児の割合でした。副次アウトカムは、DAS-IIのクラスター(言語能力、非言語的推論能力、空間認識能力)スコア、粗大運動能力分類システム(Gross Motor Function Classification System:GMFCS)のレベル2以上の割合、対人応答性尺度(Social Responsiveness Scale:SRS)のtスコア65点超の割合、および小児の行動チェックリスト(Child Behavior Checklist:CBCL)のスコアとしました。
親試験で無作為化された母親2,831例の出生児のうち、追跡試験に登録されたのは1,026例で、登録時の年齢中央値は7歳(四分位範囲[IQR]:6.6~7.6)でした。このうち、949例(ベタメタゾン群479例、プラセボ群470例)がDAS-IIの評価を完了しました。母親の背景、新生児の特徴は、親試験で認められたように新生児低血糖症がベタメタゾン群で多かったことを除いて、両群間で類似していました。
主要アウトカムのDAS-II GCAスコア85点未満の割合は、ベタメタゾン群17.1%(82/479例)、プラセボ群18.5%(87/470例)であり、差は認められませんでした(補正後相対リスク:0.94、95%信頼区間[CI]:0.73~1.22)。また、いずれの副次アウトカムも差は認められませんでした(逆確率加重法を用いた事後感度分析、ならびに追跡不能となった小児も含めた感度分析においても、結果は同様)。
以上から、後期早産リスクを有する母親への出生前コルチコステロイド投与は、6歳以上の小児期の神経発達アウトカムに有害な影響を及ぼさないことが分かりました。
出生前母体ステロイド投与の長期的なリスクについては、これからも報告があると思うので、随時読んでいこうと思います。 (小児科 土谷)