以前のブログで取り上げましたが、マイクロ・ナノプラスチックに関する総説(Cell Rep Med. 2024 May 17:101581.)があったので紹介します。
マイクロ・ナノプラスチックとNon-communicable diseases(NCD)との関係
Non-communicable diseases(NCD)は世界保健機関(WHO)の定義による非感染性疾患の総称で、がん、糖尿病、循環器疾患、呼吸器疾患、神経疾患などの慢性疾患が含まれ、これらの疾患は標的臓器における炎症と密接に関連しています。近年、マイクロ・ナノプラスチック(MnP)への人間の曝露とそれに伴う炎症が重大な問題となる可能性が示唆されています。
MnP粒子が直接的に、又はその溶出物(有毒な化学添加剤)を通して間接的に炎症を悪化させる可能性があります。さらに消化器系や呼吸器系のNCDがある場合、これに関連した持続的な炎症が存在してMnPの取り込みを増加させ、その結果、MnPが全身の臓器に到達するリスクが高まることが示唆されています。将来的にMnP曝露量が増加すればNCDのリスクと重症度がさらに高まる可能性が考えられます。
マイクロ・ナノプラスチック(MnP)の曝露経路
あらゆるところにMnPが存在することが分かります。

1.屋内環境:カーペット、壁紙、家具、衣類などからMnPが放出されて屋内の空気中に存在します。
2.屋外環境:交通排出物、産業廃棄物、大気中の沈着物などからMnPが発生し、風によって遠くまで輸送されます。
3.食品と水:魚、塩、ペットボトル入りの水などにMnPが含まれることが確認されています。農業におけるプラスチックの使用も作物にMnP汚染を引き起こす可能性があります。
MnPの人体への取り込みメカニズム

1.吸入経路:空気中に浮遊するMnPは呼吸によって肺に取り込まれ、気管支や肺胞に沈着します。これにより気道に炎症や酸化ストレスが引き起こされる可能性があります。
2.経口経路:食品や飲料を通じて摂取されたMnPは腸上皮を通過し、小腸のパイエル板などのリンパ組織を介して吸収され、血流に入り全身に分布します。
3.皮膚経路:皮膚を介して取り込まれることもありますが、他の経路に比べて取り込み量は少ないとされています。何らかの疾患を認めるなどの特定の条件下では皮膚を通じて体内に入り込む可能性があります。
影響を受けるシステムと臓器
1.呼吸器系:吸入されたMnPは炎症、酸化ストレス、細胞毒性、更にがんのリスク増加などの健康問題を引き起こします。
2.循環器系:血流に入ったMnPは心毒性や血管透過性の増加を引き起こし、全身の臓器にも影響を及ぼします。
3.消化器系:経口摂取されたMnPは腸内で吸収され、炎症や腸内細菌叢の変化を引き起こし、消化器系の疾患リスクを増加させます。
4.神経系:MnPのうち、ナノスケールの粒子だけ血液脳関門を通過することができ、神経毒性や発達障害,神経変性疾患のリスクが増加します。
MnPは今後、多くの疾患に共通した非常に重要な危険因子となる可能性が高いと思われます。
個人ができることには当然限界があるので、健康問題が表面化する前に、社会的な取り組みを積極的に進めていって欲しいものです。 (小児科 土谷)


