過敏性腸症候群(IBS)の症状を軽減する治療として、食事療法が有効であることを示唆する論文( The lancet. Gastroenterology & hepatology. 2024 Jun;9(6);507-520.)を紹介します。
この試験で標準的な薬物治療と比較された食事法の一つは、FODMAPと呼ばれる糖質の摂取を制限する低FODMAP食です。FODMAPは特定の乳製品や小麦、果物、野菜に含まれている、小腸で吸収されにくく大腸で発酵しやすい糖類のことです。もう一つの食事法は、食物繊維を多く摂取しつつ炭水化物の摂取は抑える糖質制限食でした。
この臨床試験は、サールグレンスカアカデミーの外来クリニックで、中等度から重度のIBSに罹患している18歳以上の294人(女性241人、男性53人、平均年齢38歳)を対象に実施されました。試験参加者は4週間にわたって、1)主な症状に応じて8種類のIBS治療薬のうちの1種類を投与する群(薬物治療群、101人)、2)米、ジャガイモ、キヌア、小麦を含まないパン、乳糖を含まない乳製品、魚、卵、鶏肉、牛肉、さまざまな果物や野菜などの食品から成る低FODMAP食を摂取し、IBS患者向けに伝統的に推奨されている食事法のアドバイスを受ける群(低FODMAP食群、96人)、3)牛肉、豚肉、鶏肉、魚、卵、チーズ、ヨーグルト、野菜、ナッツ類、ベリー類などの食品を中心とした低糖質かつ高脂質の食事を摂取する群(低糖質食群、97人)の3群のいずれかにランダムに割り付けられました。
その結果、介入から4週間後、低FODMAP食群の76%(73/96人)と、低糖質食群の71%(69/97人)で症状の有意な改善が認められたのに対し、薬物治療群で改善が認められたのは58%(59/101人)にとどまっていました。また、症状が改善した患者のうち低FODMAP食群と低糖質食群に割り付けられた患者では、薬物治療群に割り付けられた患者と比べて症状の改善度が大きかった。
以上から、薬物治療と比較して食事療法の効果は少なくとも同等であり、より優れている可能性もあることが分かりました。
実際の外来でも、薬物療法単独よりも、食事を含む+αの指導を丁寧に行った方が症状の改善度が高いことを実感しています。今回の論文みたいなデータは、自分の感覚の裏付けにもなるので有り難いですねw (小児科 土谷)