これまでに歯磨きの頻度が幼少期の自己管理能力と関連することや、歯磨き頻度が低い小学生に不登校が多いことなどが報告されています。子どもの歯磨きの頻度とレジリエンスとの関連について検討した論文( BMC oral health. 2024 Aug 10;24(1);927. pii: 927.)を紹介します。(レジリエンスとは、ストレスやトラブルに対応して逆境から立ち直る精神的な回復力)
今回の研究は東京都足立区内の全ての公立小学校の生徒を対象に行われた「足立区子どもの健康生活実態調査」のデータを利用した縦断的研究として実施されました。
2015年に小学1年生5,355人の貧困、レジリエンス、および歯磨きの頻度などが調査され、4,291人の保護者が回答(回答率80.1%)しました。2018年に子どもたちが小学4年生になった段階で追跡調査を行い、3,519人(追跡率82.0%)が回答し、データ欠落のない3,458人(平均年齢9.59±0.49歳、男児50.6%)を解析対象としました。ここでの貧困は、1年生時点で(1)世帯収入300万円未満、(2)物理的剥奪(経済的理由のため、本やスポーツ用品、必要度の高い家電製品を購入できないなど)が一つ以上、(3)支払い困難(給食費、住宅ローン、電気代、電話代、健康保険料などを払えない)が一つ以上――のいずれかに該当する場合と定義しました。
レジリエンスは、「子どものレジリエンス評価スケール(CRCS)」で評価しました。CRCSは「最善を尽くそうとする」、「からかいや意地悪な発言にうまく対処する」、「必要な時に適切な助けを求める」などの8項目の質問から成り、合計100点満点に換算するもので、スコアが高いほどレジリエンスが高いと評価されます。
その結果、1年生時点での貧困児童の割合は23.0%でした。歯磨きの頻度は、1日2回以上が77.5%で、貧困に該当する場合はその割合が有意に低かった(79.4対71.4%、P<0.001)ことが分かりました。レジリエンスを表すCRCSのスコアは、1年生時点で46.87±12.11点、4年生時点では69.27±16.3点でした。4年生時点のCRCSスコアを、1年生時点の貧困の有無と歯磨きの頻度別に見ると、貧困なしの場合、歯磨き頻度が1日2回未満では67.6点、1日2回以上では70.8点、貧困ありでは同順に62.0点、68.0点でした。

レジリエンスに影響を及ぼし得る因子(性別、同居中の親・祖父母の人数、母親の年齢・教育歴・就労状況・メンタルヘルス状態〔K6スコア〕)を調整した後、1年生時点で貧困に該当していた子どもはそうでない子どもに比べて、4年生時点のCRCSスコアが有意に低かった(-1.53点〔95%信頼区間-2.91~-0.15〕)ことが分かりました。また、1年生時点の歯磨き頻度が1日2回以上の子どもは2回未満の子どもに比べて、4年生時点のCRCSスコアが有意に高かった(3.50点〔同2.23~4.77〕)ことも分かりました。
次に、先の調整因子のほかに1年生時点のCRCSスコアも調整したうえで、1年生時点の歯磨き頻度と4年生時点のCRCSスコアとの関係を、貧困の有無別に検討したところ、貧困なしの場合、歯磨き頻度が1日2回未満と以上とで、CRCSスコアに有意差がなかったが(0.65点〔-0.57~1.88〕)、貧困ありの場合は、1年生時点の歯磨き頻度が1日2回以上の群のCRCSスコアの方が有意に高かった(2.66点〔0.53~4.76〕)ことが分かりました。
以上から、(日本の小学生を対象とした縦断的研究の結果)1日2回以上の歯磨きが子どものレジリエンスの発達に及ぼし得る影響は、貧困に該当する子どもでより顕著であることが明らかになりました。
歯磨きが貧困児童のレジリエンスにプラスの影響を与える理由として、貧困という環境では種々の要因から炎症が発生しやすく、慢性炎症がレジリエンスを低下させると報告されているが、歯磨きによって炎症が抑制されることでレジリエンスへの負の影響も抑えられたのではないかと論文中で推察されていました。また、歯磨きというライフスタイルを保つことが、子どもの自己管理能力とレジリエンスを醸成する可能性があるとも述べられていました。
子どもの歯磨きの意外な効果について紹介させて頂きました。オーラルケアは子どもにとっても大事ですねw (小児科 土谷)


