院長先生のブログ
COVID-19患者に対する非侵襲的呼吸管理では、エアロゾルの発生はほとんど増加しない
COVID-19患者への非侵襲的人工呼吸管理や高流量経鼻酸素投与は、当初は「エアロゾル発生手技である可能性がある」として、感染対策上あまり推奨されていませんでした。しかし、その後の研究で、観察研究のためエビデンスレベルは低いものの、あまりエアロゾルが発生しないのではないかという報告がされるようになりました。本当のところ、どうなんでしょうか?
今回紹介する論文は、非侵襲的人工呼吸管理や高流量経鼻酸素投与がエアロゾル産生を増加させるかを検討した研究のシステマティックレビュー(JAMA Netw Open. 2023;6(10):e2337258. )です。
高流量経鼻酸素投与(HFNO)について、5件の観察研究における152例の患者からの合計212の空気サンプルのメタ解析が行われ、サンプルレベル(OR 0.73; 95%CI 0.15-3.55; P=0.58)、患者レベル(OR 0.80; 95%CI 0.14-4.59; P=0.71)のいずれにおいてもHFNOと病原体を含む空気サンプルとの関連は示されませんでした。
環境汚染の可能性を調査した研究4件のプール感度分析では、HFNOと病原体を含む環境表面サンプルとの関連は示されませんでした。
健常ボランティアにおけるエアロゾル検出の実験的研究14件のうち9件では、HFNOと対照群とのエアロゾル濃度に統計的に有意な差は認められず、残りの研究のうち、HFNOによるエアロゾル増加の効果量は非常に小さいものでした(例:HFNOに関連したエアロゾル検出が最大の研究では2.3倍に増加していたが、これはHFNOを用いない咳嗽のみによって誘発された際の数値である「371倍の増加」と比較すると非常に小さいもの)。
非侵襲的人工呼吸管理(NIV)について、COVID-19患者のSARS-CoV-2陽性検出のための空気サンプルを調査した2件の観察研究のうち、どちらもNIVの使用と空気中ウイルス拡散の増加との関連を示していませんでした。
72例の患者からの84の空気中サンプルを含むこれらの研究のメタアナリシスでも、サンプルレベル(OR 0.38; 95%CI 0.03-4.63; P=0.13)でも患者レベル(OR 0.43; 95%CI 0.01-27.12; P=0.24)でも、NIVと病原体検出空気サンプルとの関連性は認められませんでした。
環境表面汚染の可能性を検討した研究3件のプール感度分析では、患者レベルで病原体が検出された表面サンプルとNIVとの関連は示されませんでした(NIVによるエアロゾル生成は最大の研究で2.6~7.8倍の増加が報告されていましたが、この影響はNIVなしの咳嗽による「371倍の増加」と比較すると非常に小さいもの)。
以上から、エアロゾル増加は多く見積もっても臨床的には「意義のない増加レベル」であり、HFNOまたはNIVのいずれかが、エアロゾル発生手技とみなされるべきだというエビデンスは見つかりませんでした。このため、著者らは、これらを使用している患者への曝露に基づくより特別な防護措置は必要ないと考えられると結論づけています。
SARS-Cov-2発生当初になされていた感染対策も、今後はこのような研究結果を基に見直されていくものと思われます。何事も、やりっ放しはいけません。検証は大事ですねw (小児科 土谷)