院長先生のブログ
2歳までに下気道感染すると成人期の呼吸器疾患死リスクが高くなる
これまで、幼児期に下気道感染症に罹患すると肺の発達が阻害されるため、成人後の肺機能の低下や慢性呼吸器疾患の発症リスクが高まるといわれてきました。
今回、2歳未満での下気道感染が呼吸器疾患による成人の死亡に関連するのかについて調べた論文( Lancet . 2023 Apr 08;401(10383);1183-1193.)を紹介します。
1946年3月にイングランド、ウェールズ、スコットランドで出生した5,362例を前向きに追跡しました。
26歳まで生存し、適格基準(2歳未満での下気道感染や、20~25歳時の喫煙歴に関するデータが得られているなど)を満たした3,589例について、2歳未満での下気道感染の有無別に、26歳時点をベースラインとして生存分析を実施しました。また、研究対象コホート内の死亡とイングランド・ウェールズの死亡を比較し、試験期間中の超過死亡についても推定しました。
その結果、26歳時点からの追跡期間は最大47.9年で、追跡対象となった3,589例のうち、2019年末時点で生存が確認されたのは2,733例でした(死亡:674例、移住:182例)。
2歳未満で下気道感染があった群(913例)は、下気道感染のない群(2,676例)と比べて呼吸器疾患による死亡リスクが高かった(ハザード比[HR]:1.93、95%信頼区間[CI]:1.10~3.37、p=0.021)ことが分かりました。
2歳未満での下気道感染の回数別にみると、下気道感染のない群(2,676例)と比べたHR(95%CI、p値)は、1回感染群(596例)が1.51(0.75~3.02、p=0.25)、2回感染群(162例)が2.53(0.97~6.56、p=0.057)、3回以上感染群(155例)が2.87(1.18~7.02、p=0.020)でした。
2歳未満での初回下気道感染の年齢別にみると、下気道感染のない群(2,676例)と比べたHR(95%CI、p値)は、1歳未満群(648例)が2.12(1.16~3.88、p=0.015)、1歳以上2歳未満群(256例)が1.52(0.59~3.94、p=0.39)でした。
2歳未満での初回下気道感染時の治療別にみると、下気道感染のない群(2,676例)と比べたHR(95%CI、p値)は、未治療または外来治療群(856例)が1.79(1.00~3.19、p=0.051)、入院治療群(52例)が4.35(1.31~14.5、p=0.017)でした。
2歳未満での下気道感染は、1972~2019年のイングランド・ウェールズの呼吸器疾患による死亡の20.4%(95%CI:3.8~29.8)に関連していると推定され、これはイングランド・ウェールズにおける17万9,188例(95%CI:3万3,806~26万1,519)の超過死亡に相当していました。
以上から、2歳未満での下気道感染があると、26~73歳の間に呼吸器疾患によって死亡するリスクが、約2倍となることが示されました。そして、2歳未満での下気道感染は成人期の呼吸器疾患による死亡の5分の1に関連していることも示されました。
幼児期の下気道感染と成人の呼吸器疾患の発症や予後との間には関連性があるものと思われます。
成人期の呼吸器疾患死のリスクを下げるためには、まず子どもから!
我が国の予防医学の現状を考えると難しいかも知れませんが、「生涯にわたっての予防戦略」が必要であることは間違いないようですねw (小児科 土谷)