院長先生のブログ
long COVIDの病態 -その他⑭-

Long COVIDの病態機序として、これまでウイルスの持続感染、神経炎症、凝固亢進、自律神経機能障害などいくつかの仮説を取り上げてきました。
これらの仮説を1つに結びつける病態仮説がペンシルバニア大学等から提唱されたので紹介します(Wong AC et al. Serotonin reduction in post-acute sequelae of viral infection. Cell. Oct 16, 2023.)。
Serotonin reduction in post-acute sequelae of viral infection: Cell
まずLong COVID(PASC)を発症した1500人以上のコホートを追跡調査し、Long COVID(PASC)患者と完全に回復した感染者を区別できるバイオマーカーの同定を目指しました。
その結果、血漿セロトニンが急性期COVID-19(中等症,重症)とLong COVID(PASC)で減少し、回復した感染者では保たれていることが分かりました。
このセロトニン減少は、SARS-CoV-2ウイルス感染だけでなく、他のウイルス感染の急性期あるいは慢性期のヒトやマウスでも観察され、またウイルスRNA模倣物質であるポリ(I:C)を投与したマウスでも観察されました。
では、どのようにセロトニンの減少がもたらされるのでしょうか。
著者らは、ウイルスの感染、つまりウイルスRNAの自然免疫受容体Toll-like receptor 3(TLR3)への結合→1型インターフェロンの誘導→セロトニンの減少という経路を考えました。
I型インターフェロンがセロトニンの減少が引き起こす機序として
①セロトニン貯蔵に影響を与える血小板の活性化亢進(=凝固亢進)と血小板減少
②セロトニンの前駆体である必須アミノ酸トリプトファンの腸管吸収の低下
③モノアミン・オキシダーゼ(MAO)を介したセロトニンの代謝亢進
の3つが示されました。
そして、末梢のセロトニン欠乏が迷走神経の活性化の抑制を招き、腸脳連関の結果、認知機能障害に繋がっていくと考えられました。
以上から、冒頭の4つの病態が「セロトニン減少」によってつながる一連の病態である可能性が示されました。
long COVIDにおける認知機能障害だけでなく、他のウイルス感染後症候群にも当てはまりそうです。
long COVIDの治療に繋がる知見ですので、今後の報告に期待しましょう。 (小児科 土谷)