院長先生のブログ
long COVIDの病態 -その他⑯-
SARS-Cov-2感染によって、急性期に心血管系疾患の発生頻度が大きく増えることはかねてから指摘されていますが、long COVIDでも血液中に微小血栓のもととなる単球と血小板の凝集塊が出来て、これが血液中の補体系の異常によるものであることが報告されています(Science. 2024 Jan19;383(6680):eadg7942.)。
Persistent complement dysregulation with signs of thromboinflammation in active Long Covid | Science
COVID-19罹患者113人を初回感染後1年間追跡調査し、long COVIDに関連するバイオマーカーを同定した研究です。
6ヵ月後の追跡調査では、40人の患者がlong COVIDの状態でした。
プロテオミクスにより、血清中の6500以上のタンパク質を測定した結果、long COVID患者は急性期に補体の活性が亢進し、6ヵ月後の追跡調査でもそれが持続していましたが、回復したlong COVID患者で補体レベルは正常化していました(補体系は感染に対抗したり,感染し傷害した細胞を除去する作用がある)。
補体系の活性化の結果、補体C5b-C9からなる終末補体複合体(TCC)が形成され細胞膜に結合し、細胞溶解を引き起こす。これを反映して、C5bC6複合体は増加、C7を含むTCCは細胞膜に取り込まれて減少、TCCにより細胞膜が損傷する(このため血管内皮障害マーカーvWF↑,赤血球溶解マーカーHeme↑)。また、C5活性化のためのトロンビン高値となるため、これを抑制するアンチトロンビンIIIが消費され、血小板が刺激されるため血小板活性化マーカー:トロンボスポンジン1と血小板・単球凝集体が増加した。
さらに、抗CMVおよび抗EBV IgG抗体レベルの上昇と関連していました。
以上よりlong COVIDは、補体活性化、血管内皮障害、血小板活性化、ウイルス再活性化といった特徴を示すことが分かりました。
COVID-19に関してはまだまだ解明されていない部分が多そうです。
罹患しないに越したことは無いので、流行状況に応じて、最低限の感染症対策はきちんと実施しましょう。 (小児科 土谷)