院長先生のブログ
AI診断の導入で医療は激変する?
Science誌に、スクリップス研究所のEric Topol教授による寄稿が乗っていました。
Toward the eradication of medical diagnostic errors | Science
ざっくりまとめると・・・
◆毎年80万人近くの米国人が誤診によって死亡または後遺症を負っている。これは年間で成人の5%が診断ミスをされ、ほとんどの人が生涯で少なくとも1度は誤診を経験する計算になる!
**下図はアメリカにおける誤診による死亡者/後遺症患者数(縦:人数、横:領域別)
◆誤診の一番の原因はその診断を考慮しなかったこと。診療時間が短く、思考するために時間がかけられないため、医師の直感に依存した診断プロセスになってしまうことが原因。
◆心理学で、思考には「早い思考(システム1思考)」と「遅い思考(システム2思考)」の2つのモードがあるという理論があるが、誤診は反射的で直感的なシステム1思考に伴って生じることが多い。もし医師が考える時間をもっと持ち、文献検索や検討をして、患者データをすべて分析するシステム2思考をすれば、誤診は減らすことが出来る。
◆このシステム2思考に、AI技術の発展が大きく寄与する可能性がある。とくに医療画像(放射線画像,内視鏡画像など)の解釈においてAIは誤診を減少させることが既に示されている。
◆ChatGPTのような言語モデルは、診断がつかない症例において正確な診断を提供することで、医療診断の精度を改善する新たな可能性を示している。ネット上には複数の医師が診断できなかった疾患をGPT-4に入力したところ診断にたどり着いた例が複数紹介されている。
◆AIが診断精度を向上させる可能性は非常に高いが、AIを盲目的に信頼してしまう自動化バイアスや逆に自分自身の診断能力に強い自信を持つことによる、AIの解釈を信用しないバイアスが生じうる。
◆あと数年で、より有能で医療に特化したAIモデルを構築されれば、AIがシステム2の機械的思考でセカンドオピニオンを提供するという貴重な役割を果たし、誤診の根絶という価値ある目標に向かって前進する一助となる可能性が高まる。
これまでにもブログで医療分野におけるAI導入について何回か取り上げてきましたが、今後数年のうちに医療は激変していくのだろうと思いました。
誤診を減らすことは、医療者にとっても患者さんにとっても非常に良いことです。
その一方、医療の分野によっては、仕事が激減したり、AIの出した結論をただ承認するだけの診療になってしまったり、AIが出来ない診療にシフトしたりしなければならない状況になってしまうことが懸念されます。
今の医学生さんは、こういう点も踏まえて自分の進路を考えなければならないと思うと、何だか大変。僕たちの頃は、ただ「やりたいこと」を選んで進むだけで済んだのにね。。 (小児科 土谷)