院長先生のブログ
自然の中を散策すると注意力UP?

新潟に戻ってくるまで、自然豊かな環境とは正反対の環境に済んでいたもので、タイトルが気になって読んだ論文( Scientific reports. 2024 Jan 22;14(1);1845. )です。
Immersion in nature enhances neural indices of executive attention | Scientific Reports
18〜57歳の92人(女性71人、男性20人、ノンバイナリー1人)を対象に、自然環境の中を散歩することが脳にどのような影響を与えるかが調査しました。
対象者は半数(46人)ずつ、40分間、ユタ大学キャンパスの近くの丘陵地帯にある樹木園を歩く群と、アスファルトで舗装された医学部キャンパスを歩く群にランダムに割り付けられられました。
どちらの群も、EEGを測定するための電極が取り付けられたキャップをかぶった状態で、散歩の直前に1,000から7ずつ引いていく消耗性の高い認知課題をこなしました。次に、参加者は注意を構成する3つの機能を評価する課題であるAttention Network Task(ANT)を行ってから40分間の散歩に出かけ、散歩の後に再びANTを行いました。
その結果、自然環境の中を散歩した群では散歩後に実行制御能が改善していることが確認されましたが、都市環境の中を散歩した群ではこのような改善は認められないことが示されました。
具体的には、自然環境の中を散歩した群では、散歩前に比べて散歩後にターゲット刺激に対する反応時間が有意に短縮し、また誤った反応やミスをしたときに生じる負の電位であるエラー関連陰性電位(ERN)が増加していることが確認されました。さらに、試験の最後に対象者にPerceived Restorativeness Scale(PRS)を用いて散歩の回復効果を評価してもらったところ、自然環境の中を散歩した群の方が都市環境の中を散歩した群よりも効果を高く評価していることが示されました。
自然環境の中を歩いた参加者では、散歩後に課題に対する実行注意の向上が認められたのに対して、都市環境の中を散歩した参加者では、そのような結果は認められませんでした。
この論文から、「自然環境の中を歩く」ということに何か特別なものがあるということがうかがえます。是非、自然環境が脳に良い影響を与える理由を解明して欲しいものです。
人間には自然に対する原始的な欲求があるとされています。仕事で忙しい方も多いと思いますが、時には時間を作って自然の中を散歩してみては如何でしょうか。 (小児科 土谷)