院長先生のブログ
院外心停止患者への市民によるCPRとAED使用で生存が2倍以上に
ペーパークラフトAEDについて先日紹介したこともあり、今日はAED関連の話題にします。
市民によるCPR&AED使用と、患者の1ヵ月後の転帰との関連について評価した日本からの論文( Resuscitation. 2024 Feb;195;110116.)です。
総務省消防庁が2005年より開始した国内のOHCAレジストリであるAll Japan Utstein Registry Dataを用いました。2005~20年に登録された院外心停止(OHCA)患者35万8,025例から、市民が居合わせた心室細動または無脈性心室頻拍の初期リズムがショック適応の患者7万3,387例を抽出し、心肺蘇生講習会認定者数と全国の市民による心肺蘇生(CPR)実施率との関連をポアソン分布とコクラン・アーミテージ検定による傾向検定により解析しました。市民が実施したCPRを、胸骨圧迫のみ、胸骨圧迫と人工呼吸、胸骨圧迫と人工呼吸とAEDの使用で分類し、転帰との関連について多変量混合ロジスティック回帰分析を用いて評価しました。主要評価項目は1ヵ月後の神経学的に良好な生存、副次評価項目は病院到着前の蘇生と1ヵ月後の生存としました。
心肺蘇生講習の累積認定者数は、2005年の993万327人から直線的に増加し、2020年には3,493万8,322人で(年間増加率:1.03、p<0.001)、これは15歳以上の日本人の32.3%を占めていました。
OHCA患者は、2005年では1万7,414例(年齢中央値 75歳[IQR 64~84])でしたが、2020年には2万4,291例(80歳[IQR 70~87])に増加、高齢化していました。
居合わせた市民(バイスタンダー)による心肺停止患者へのCPR実施率は、2005年の40.63%から2020年には56.79%へと一貫して増加していました(p<0.001)。
2005~20年の初期リズムがショック適応のOHCA患者7万3,387例のうち、CPRを受けたのは4万1,678例(56.8%)で、CPRを受けた患者4万1,678例のうち、胸骨圧迫は98.28%、人工呼吸は22.81%、AEDの使用は8.41%の症例に実施されていました。
臨床転帰について、市民によるCPR実施(CRP+)群とCPRを実施しなかった(CRP-)群を比較すると、以下のすべてにおいてCPR+群のほうが転帰が良好でした。
- 神経学的に良好な転帰であった患者の1ヵ月後の生存率は、CPR+群:25.54% vs.CPR-群:15.5%(p<0.001)
- 1ヵ月後の生存率は、35.30% vs.26.47%(p<0.001)
- 1ヵ月後の生存者のうち神経学的に良好な転帰であった者の比率は、72.36% vs.58.74%(p<0.001)
- 病院到着前の蘇生率は、35.42% vs.27.01%(p<0.001)
市民のCPRが高いほど、神経学的に良好な転帰であった患者の1ヵ月後生存率が高いことが示されました。CRP+群の各分類別に、CRP-群と比較した転帰は以下のとおり。
- 胸骨圧迫のみ オッズ比(OR):1.24(95%信頼区間[CI]:1.02~1.51、p=0.029)
- 胸骨圧迫+人工呼吸 OR:1.33(95%CI:1.08~1.62、p=0.006)
- 胸骨圧迫+AED OR:2.27(95%CI:1.83~2.83、p<0.001)
- 胸骨圧迫+人工呼吸+AED OR:2.15(95%CI:1.70~2.73、p<0.001)
以上から、市民へのCPR普及率は着実に増加しており、OHCA患者に対して市民がCPR(AED使用含む)実施した場合は、CPRをしなかった場合と比較して、患者の1ヵ月後転帰を有意に改善していたことが示されました。
院外心停止患者数は年々増加・高齢化傾向にあります。
今後、日本でのCPR実施率を上げるためには、外国のように学校でのCPR講習の義務化であったり、自動車運転免許更新でのCPR講習の義務化などを行う必要がありそうです。
何より、市民の皆様に心肺蘇生とAED使用の重要性について、よく知って貰うことが大切ですねw (小児科 土谷)