院長先生のブログ
板上に咲く
以前も読ませて頂いた原田マハさんのアート小説から、1冊。
『板上に咲く』 著 原田マハ
今回の画家は、日本が誇る情熱の版画家・棟方志功です。
棟方志功と言えば、モジャモジャ頭で牛乳瓶の底の様な眼鏡をかけて、版木に覆いかぶさるように一心不乱に削っている創作中の映像は、彼の芸術家としての生き様を映し出したシーンとして、非常に印象的です。そんな棟方志功の半生を、志功の最高の理解者であり、伴侶でもある妻・チエの視線で捉えて描いています。
それまで絵画に比べて格下とみられていた版画に、パッションとオリジナリティーで革命を起こし、数々の名作を生み出し、『世界のムナカタ』へと登り詰めた棟方志功。その芸術家としての志功は、身も心も命までも版画となってしまうことを願い、只々純粋に版画に全てを注ぎ込んできました。
その一方で、ジリ貧生活が続く中で、必死に一家を支え、4人の子どもを育て、志功が使う墨を磨り続けてきたのは、妻のチエでした。そんな彼女の内助の功と志功への絶大なる信頼と愛情が痛く染み入る内容となっています。
ゴッホの『ひまわり』に憧れ、「自分も日本のゴッホになる」と夢見た棟方志功は、いつしかゴッホを追い越し『太陽』となりました。そして、太陽を追いかけ咲かせた大輪の『ひまわり』こそが、妻のチエであることに気づかされる・・・
昭和初期を背景に、その時代を駆け抜けた芸術家・棟方志功と妻・チエの物語。
アート好きの方はもちろん、そうでなくても満足できる1冊だと思います。 (小児科 土谷)