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見附市小児科 2023年春開院 みつけこどもクリニック | 小児科一般診療・予防接種・乳児健診 見附市

マスクは子どものコミュニケーション能力を低下させるのだろうか?

5類に変更になったこともあり、本当に「マスクで子どものコミュニケーションがうまくいかなくなったのか」検証してみましょう。

 

フェイスマスクは感情の読み取りを阻害するのか

このテーマに関連する論文を紹介します(Masking Emotions: Face Masks Impair How We Read Emotions. Front Psychol. 2021 May 25;12:669432)。マスクを装着して口元が見えない状態になった場合に、顔の読み取りが困難になるか検証しています。

方法

3歳から5歳の幼児31人、6歳から8歳の子ども49人、18歳から30歳の成人39人が研究に参加しました。

スマートフォンに40パターンの表情が表示されます。表示される40パターンは次の通り。

①弱い幸せの表情 4パターン
②強い幸せの表情 4パターン
③弱い悲しみの表情 4パターン
④強い悲しみの表情 4パターン
⑤弱い恐怖の表情 4パターン
⑥強い恐怖の表情 4パターン
⑦弱い怒りの表情 4パターン
⑧強い恐怖の表情 4パターン
⑨中立の表情 8パターン


これらの40パターンの表情が、マスクありバージョンとマスクなしバージョンでランダムで表示され、参加した子どもは、それらの表情について、幸せ、悲しい、恐怖、怒り、中立のいずれかを解答しました。幼児の場合、親が答えを誘導しない形でサポートし、回答しました。回答までの時間制限は無し。

 

結果

すべてのグループにおいて、マスクをしている画像は、マスクのない画像に比べて、正答率が有意に低下していました。特に幼児において、正答率の低下が顕著でした。

 

以上から、マスクの使用は、すべての年齢層、特に幼児の顔からの視覚による感情推論に影響を与えることが分かりました。口角がマスクに隠れると表情を読みにくくなるので、この結果は当然でしょう。日常のコミュニケーションでは、視覚情報だけでなく聴覚情報もあるので、本当にコミュニケーション能力が低下するのか、この点を検証しなければなりません。

 

本当にコミュニケーション能力は低下するのか

 

続いて紹介する論文(Front Psychol. 2022 Apr 26;13:874411. doi: 10.3389/fpsyg.2022.874411. eCollection 2022.)では、生後12ヶ月と24ヶ月の子どもを対象に、声と顔の認識能力を調査しています(Lookitというオンラインプラットフォームを使って、4人の異なる話し手が、音の高い単語/話し手の情報が高いと音の低い単語/話し手の情報が低いを発するのを見聞きして検証しています)。結論としては、この論文では生後24ヶ月の幼児は、マスクで話者の口が隠れていても話者の声を認識し学習できることが示されています。

 

以上をまとめると、マスクが感情の読み取りを阻害したという論文はありましたが、コミュニケーションは「表情認識」が全てではなく、人との関わり合いには身振り、手振り、使う言葉やトーンといったコミュニケーションツールもあるため、「マスクを着用すると子どものコミュニケーションがうまくいかなくなる!」と断言してしまうのは上手くありません。むしろ、子どもはそのような状況下でも、新しい感情表現を取得し、マスクの欠点を上手く代償して、コミュニケーションを上手に取ってしまうかもしれません。

 

もちろん、世の中には上手く代償できない子どもも沢山いるので、必要の無いときはマスクを外して、表情豊かに子どもとコミュニケーションを取ると良いでしょう。状況に応じたマスク着用の使い分けが肝要ですね。 (小児科 土谷)

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