院長先生のブログ
子宮頸がんファクトシート -疫学編-
国立がん研究センターのがん対策研究所がHPVワクチンや検診など子宮頸がん対策についての国内外の科学的根拠を検討した「ファクトシート(報告書)」をまとめ、無料で公開しています。
子宮頸がんファクトシート | がん対策研究所 (ncc.go.jp)
今回はこのファクトシートをもとに、子宮頸がんとHPVワクチンの現状を振り返ります。
ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐ「HPVワクチン」は、日本では2013年4月から小学校6年生〜高校1年の女子を対象に無料で接種できる定期接種ワクチンでした。その後、接種後の体調不良を訴える声をメディアがきちんとした検証もせず、「薬害」かのように大々的に報じたことで一気に不安が広がり、国が同年6月に積極的勧奨を停止し、接種率は1%未満に激減しました。2021年11月に積極的勧奨が再開されるまでの長い間、HPVワクチン接種が実質中止状態となっていたのは皆さんのご存じのとおりです。
積極的勧奨を停止の期間を経て、どうなったか?事実をきちんと認識しておきましょう。
日本では子宮頸がんの罹患率、死亡率ともに増加した
子宮頸がんの年齢階級別罹患率・死亡率の推移を示します。
上図を見て分かる通り、子宮頸がんの罹患率、死亡率はともに増加しています。1985 年時点での子宮頸がんは60〜80代が多く認められましたが、2019年時点では30〜50代にピークのあるがんに若年化していることが分かります。日本の子宮頸がんは高齢者の病気から、若年・中年者の病気に変わりつつあるのです。
諸外国と比較してみましょう。
諸外国と比較をしてみると、子宮頸がんの罹患率の増加が顕著です。そして、1980年代~90年代にかけて、日本は比較的低い死亡率をほこっていましたが、諸外国が死亡率を大幅に下げた結果(検診の推進などによる)、微増を続ける日本の死亡率が最も高くなってしまいました。
ファクトシートではありませんが、他の論文(Cancer Sci. 2022 May;113(5):1801-1807. doi: 10.1111/cas.15320. Epub 2022 Mar 15.)でも同様の結果が報告されています。
子宮頸がんは、日本では「マザーキラー」であり続けているのです。 (小児科 土谷)