院長先生のブログ
心肺蘇生時の「家族の立ち会い」③
昨日に引き続き、心肺蘇生時の「家族の立ち会い」小児編です。
一般的なケア
大人のサポート体制
子どもにとっては常に守る人、つまり親の機能を果たす人が必要です。残された親、祖父母、親戚、近所の方など、当面親の機能を果たす方を決めてもらい、その方が中心となり、子どもに寄り添って支える役をとると良いでしょう。しかし、その方自身も大変な状況にあり、トラウマを受け、喪失を体験しています。我々医療スタッフは、その方と子どもを含めて支援することが必要です。現場で寄り添う人は余り子どもから聞き出そうとし過ぎるのではなく、「大丈夫?」と声をかけ、側にいるメッセージとしましょう。また、どのような反応があるかを感じてそれに対応するためには、目を配ることも必要です。状況によっては、肩を抱く、背中をさする、などのスキンシップが必要な場合もあるでしょう。
泣ける場所の提供
特に年長の子どもでは、泣けるような場所も大切です。救急外来などは静かになれる場所が決して多くありませんが、泣ける場所を探してあげると良いでしょう。
セレモニー
お葬式などのセレモニーに参加ができる状況であれば、参加させてあげましょう。子どもが怖がったり、嫌がったりする場合は無理に参加させる必要はありません。お葬式に参加しない時には勿論、参加した場合でも、写真や残された品を飾って簡単な仏壇や祭壇とし、お線香を立てたり、祈るなどのセレモニーが必要です。何も残っていない時には板に名前を書いてご位牌の代わりにするなどの方法も必要になるかもしれません。子どもが拒否した時には、無理強いはせずに、周囲の大人だけでも祈ることを続けましょう。
表現の場を与える
絵をかく、話をする、遊びなど、子どもが表現する場を与えましょう。親の絵を書いて塗りつぶしたりすると大人は心が痛みますが、子どもの表現に寄り添うように心がけましょう。一人でそれに極端に没頭している時は声をかけて相手をしてあげると良いでしょう。
思い出の表現と共有
子どもの持っている思い出の品を一緒に見たり、子どもの思い出に耳を傾け、亡くなった方との思い出を共有することはとても重要です。しかし、直ぐに出来ないかもしれません。焦らずにタイミングを計りましょう。
初期にみられる子どもの反応とそれへの対応
混乱
子どもが自分では処理できない、余りにも大きな出来事に混乱することは当然です。叱るのではなく、「どうしていいかわからなくなるよね」などの声かけ、共感を示しましょう。
怒り
「何故自分が?」と言う気持ちや「何故私を捨てていったの?」という気持ちなどから怒りが強くなるのも当然です。いらいらしたり、当たり散らす時期もあるでしょう。それが当然の感情であることを告げて、子どもが罪悪感を持つことを防ぎましょう!
強い悲しみ・落ち込み・引きこもり
親が亡くなった時には強い悲しみを感じると同時に、自分の存在自体が失われるような強い喪失感が出現します。そのために、落ち込んだり、引きこもったりすることがあります。初期には当然なこととして受け入れましょう。
なかったことにする
子どもによくみられるものとして、何もなかったように、あるいは亡くなった方が生きているように振る舞うことがあります。無理に認めさせる必要はありませんが、この状態が長期にわたることは決して良いことではありません。徐々に受け入れられるよう支援が必要です。
赤ちゃんがえりや分離不安
赤ちゃんがえりをしたり、一人になることを不安がって残された家族に付きまとうこともあります。叱ったりするのではなく、スキンシップを心がけましょう!
自分のせいにする
一般的に子どもは「死」の原因を自分に引き付けて考えることが多いようです。例えば、「昔、お父さんから怒られた時に『お父さんなんか死ねばいい』と自分が思ったからお父さんが死んでしまった」と思う子どももいます。けんかしたからお兄ちゃんが死んじゃったと思うこともあります。それを外に表現せずにいらいらしたり、引きこもったり、自暴自棄の行動をしたり、中には自傷に至ることもあります。従って、大切な人の「死」はあなたのせいではないことを伝えることは重要です。子どもと話をしてそのような気持ちを持っていないかを確かめることも大切です。
その他の罪悪感
自分だけ助かったこと、自分が親を守れなかったことなどから、罪悪感を抱くことは、年齢を問わず多いものです。 「あなたは悪くない」というメッセージが役に立ちます。
よい子になりすぎる
がんばって、「良い子」の行動をすることも多いです。悪いことではないので、褒めることは大切ですが、極端に褒めるのではなく、時々、肩の力を抜けるような場を作り ましょう。そして、「元のあなたで十分である」ことを伝えましょう!
自分を亡くなった人に重ねる
母親を亡くした子どもが母親のようにふるまってケアをしようとすることもあります。時には、亡くなった人の声色を使うなど、自分が亡くなった人になったかのように行動する子どももいます。子どもが自分自身を取り戻すように、「亡くなった人」の話をして、客観視できるように支援しましょう。
亡くなった人の声を聞く
亡くなった人の声を聞くことは少なくありません。否定するのではなく、聞こえるのは不思議ではないが、現実には声はしていないことを確認しましょう。それでも現実に聞こえると言い張ることが長期化していたり、その声に従おうとしたりする時には専門家に相談することが必要です。
新しい親代わりとの関係性を築くことを避ける
本来は、子どもが安心して依存できる人(新しい愛着対象)ができることが重要なのですが、その人との関係性ができることが、亡くなった親を裏切るような気がするために拒否することがあります。また、中には自分を捨てた親への怒りを新しい親代わりの方にぶつける子どももいます。初期の頃はその気持ちを大切にしてあげましょう。亡くなった方のご位牌に、一緒に手を合わせるなどが役に立つこともあります。
希死念慮
急性期の救急外来などで問題になることは稀ですが、しばらくして、うつ状態が悪化して希死念慮に至ることもあります。子どもの中には亡くなった親の後を追いたい、もしくは追わなければならないという気持ちに駆られる場合もあります。亡くなった方の死を受け入れられない場合が多いので、子ども
に寄り添い、亡くなった人の生きていた時のことを話題にしたり、十分に話を聞いてあげたりすることで受容を促すのも良いでしょう。亡くなった親に会いに行くと言ってきかなかったり、死にたいと訴える時は早期に専門家に相談しましょう!
トラウマを伴う喪失体験
親を失うことがトラウマとなる体験を伴っている時にはトラウマへの対応を同時に行うことが必要となります。親を失った子どもが安心して寄り添える人ができることは恐怖の体験を表現して回復していく道筋になります。子どもが安心して依存できる人ができることが基本ですが、喪失を伴うトラウマからの回復は専門家の支援が望ましい場合が多く、早期に検討しましょう。
以上、成人ならびに子どもに対するグリーフサポートについて記載しました。実際の臨床現場では配慮しなければならない重要な点の一つです。その時、私ならどうするか? この機会にじっくり考えてみるのも良いでしょう。 (小児科 土谷)