院長先生のブログ
おたふく難聴の臨床的特徴
先日、就学前の男の子(ワクチン未接種)が耳下腺を腫らして受診していたのを思いだしました。せっかくなので、今日は流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の合併症のひとつであるムンプス難聴についての論文(Acta Otolaryngol. 2017;137(sup565):S44-S47.)を紹介します(少し古い論文ですが、日本から発表されたものです)。
この論文では、1987~2016年の期間に、日本の19病院の耳鼻咽喉科でムンプス難聴と診断された患者さんを対象に、多施設共同レトロスペクティブ研究デザインのもとで、臨床パラメータを分析しています。その結果、ムンプス難聴患者67名が登録され(調査対象者は男性35名、女性32名で、年齢は1歳~54歳、年齢中央値は9.5歳)、難聴患者の大部分は予防接種を受けていませんでした。難聴患者の内訳ですが、片側難聴が63名、両側難聴が4名で、65名は重度難聴でした(!)。重度難聴のうち、完全回復は1耳のみでした。
これらの結果から、ムンプス難聴は重度難聴例が多く、治療に難渋して回復が望みにくいことが分かりました。
勤務医時代に、自分も何例かムンプス難聴のお子さんを診療した経験がありますが、いずれも治療に抵抗し聴力は回復しませんでした。この論文の結果も、実体験と合致するもので、「やっぱり、そーなんだな」と納得です(そもそも小児科にコンサルくる場合は髄膜炎合併していたり、重度難聴例だったりで重症例ばかりでしたが)。
おたふくかぜは、ワクチンで防ぐことが出来る病気(VPD)のひとつです。就学前に、まだ2回のワクチン接種を終えていないお子さんは、集団生活が始まる前に接種しておきましょう。罹らないですむ病気は、罹らないに越したことは無いのです。 (小児科 土谷)