院長先生のブログ
ウイルス感染症は神経変性疾患発症の引き金となる
神経向性をもつSARS-CoV-2ウイルスの感染が中枢神経系にさまざまな影響を与えることが分かってきています。それに関連して、そもそもSARS-CoV-2ウイルス以外のウイルスは神経変性疾患発症のリスク因子にならないのかについて調べた論文があります(Neuron. 2023 Jan 11:S0896-6273(22)01147-3.)。
解析に30万人規模のデータを含むフィンランドのバイオバンクFinnGenを使用し、その結果を50万人規模の英国のバイオバンクUK Biobankで確認しています。この論文にはCOVID-19は含まれていませんが、神経変性疾患のリスク増加と有意に関連する45のウイルス感染が同定され、そのうち22が2つのバイオバンクで確認されています。関連が強かったものはウイルス性脳炎とアルツハイマー病でした(ハザード比30.72および22.06)。インフルエンザ肺炎も5つの神経疾患(アルツハイマー病、ALS、認知症、パーキンソン病、血管性認知症)と有意に関連が認められました(英国データでALS発症は約8倍)。一部の感染は、感染後15年まで神経変性疾患のリスク上昇と関連していました。
これらの結果から、SARS-CoV-2ウイルスに限らず、ウイルス感染は神経変性疾患や認知症をきたすリスクとなることが分かりました。成人の論文でしたが、やはり罹患して良い感染症は無いってことなんでしょうね。
ちなみに、別の論文ですがインフルエンザワクチンを接種するとアルツハイマー病のリスクを下げることができることが分かっています(J Alzheimers Dis. 2022;88:1061-1074)。いろんな意味で、ワクチン接種は大切。罹らないですむに越したことは無いのですね。 (小児科 土谷)