院長先生のブログ
妊婦への新型コロナウイルス感染は胎児に大きなリスクになります
妊娠時に母体が新型コロナウイルスに感染すると胎児に悪影響が出ることが報告されています。
今回は妊娠初期から中期にかけて新型コロナウイルスに感染すると胎児の脳に出血が見られるという報告(Brain. 2023 Mar 1;146(3):1175-1185.)です。
医学的理由で人工流産した母体からの胎児の脳を調査した際、新型コロナ流行下で得られた検体で大脳皮質に出血が見られる頻度が高くなっていることが分かりました。新型コロナウイルス感染との関係性を調査したところ、大脳皮質出血を合併した妊娠初期および中期の胎児脳組織では全例でスパイク蛋白質が検出され、SARS-CoV-2ウイルスの存在が確認されました(新型コロナ感染が起きているということ)。スパイク蛋白は大脳皮質の神経細胞や前駆細胞にはほとんど検出されませんでしたが、出血した胎児サンプルの脈絡叢に豊富に存在していました(そのほか、SARS-CoV-2ウイルスは胎盤、羊膜、臍帯の組織でもわずかに検出されました)。大脳皮質出血は血管の完全性(integrity)の低下と胎児脳への炎症・免疫細胞の浸潤の程度と関連しており、(出血が先か炎症が先かはわかりませんが)新型コロナウイルス感染経過中にこの両者が起きていたものと考えられます。出血が見られたのが受胎後12~14週という胎児脳神経系の発達にとって重要な時期であったことから、論文では、妊娠初期から中期にかけて母体が新型コロナウイルスに感染をすると、胎児の脳に出血が起こることがあり、その後の脳神経系の発達に大きな影響が出る可能性があると述べています。
これまでにも、指摘されてきたことですが、妊婦への新型コロナウイルス感染は胎児にとっても大きなリスクとなります。今回の論文からは、胎児にまで感染の影響が及ぶことが分かりました。
新型コロナウイルスワクチン接種は、母体への感染による健康リスクを防ぐだけでなく、生まれてくる赤ちゃんにも大きなメリットがあるのです。 (小児科 土谷)