院長先生のブログ
long COVIDの病態 -持続感染⑨-
long COVIDの病態について。「持続感染」に関する話題です。
neuro-PASCの発症には、脳脊髄液中の抗SARS-CoV-2反応が低下し、脳からウイルスを完全に排除できず神経炎症が持続することが関与することが報告されました(Brain. 2023 May 10:awad155.)。
neuro-PASC患者18名と未発症94名の感染者の血清および髄液中のSARS-CoV-2、および他の一般的コロナウイルス229E、HKU1、NL63、OC43に対する液性免疫を検討した前向きコホート研究です。
neuro-PASC群の血清ではすべての抗体のアイソタイプ(IgG,IgM,IgA)とサブクラス(IgA1-2,IgG1-4)が検出されましたが、髄液ではIgG1に集中し、IgMが検出されませんでした(→脳におけるSARS-CoV-2に対する特異的な反応が、髄腔内合成ではなく、血液脳関門を介した髄腔内への抗体の選択的移行によって生じることを意味している)。
また、感染後にneuro-PASCを発症した人は、SARS-CoV-2に対する抗体依存性補体沈着(ADCD)、NK細胞活性(ADNKA)およびFcγ受容体結合能の減少といった全身性の抗体反応の減弱を示しましたが、229E、HKU1、NL63、OC43などの他の一般的なコロナウイルスに対する抗体反応は有意に拡大していました。
このコロナウイルスに対する偏った液性免疫の活性化は、特にneuro-PASC患者において顕著であり、関連ウイルスに対する既存の免疫応答が現在の感染に対する応答を形成するという「抗原原罪(従来株のウイルスに対して免疫が獲得された後に変異株のウイルスに感染した場合、従来株に対する免疫が変異株に対する新たな免疫の誘導を邪魔する現象;original antigen sin)」が、neuro-PASCの予後を決める重要な因子となることが示唆されました。
以上から、neuro-PASCの発症には髄液中の抗SARS-CoV-2反応が低下し、脳からのウイルス排除が不完全で神経炎症が持続することが関与していることが示唆されました。 (小児科 土谷)