院長先生のブログ
long COVIDの病態 -持続感染⑪-
long COVIDの病態について。
「持続感染」に関する論文(doi:https://doi.org/10.1101/2023.04.04.535604)です。
これまでlong COVIDの原因として、「持続感染」について触れてきましたが、どこにウイルスが存在するのか?ブレインフォグや認知症を来す機序(どのようにウイルスが脳に影響を及ぼすのか)は不明でした。
今回の論文によると、ウイルススパイク蛋白の供給源が頭蓋骨であることが指摘されています。
脳に到達したスパイク蛋白が神経細胞障害、脳血管障害、炎症性変化を来すことも示されています。
COVID-19以外の原因で死亡した人々の頭蓋骨の29%にスパイク蛋白が存在しており、軽度の感染でも長期間持続して頭蓋骨に存在することが示唆されました。
以下は、論文のポイントをパートごとにまとめたものです。
マウスにおいてスパイク蛋白が 標的とする臓器は全身に及ぶ
SARS-CoV-2の標的となる全組織を発見するために、マウスを透明化するクリアリング技術を用いて、SARS-CoV-2ウイルス(武漢株,アルファ変異株)のスパイク蛋白、インフルエンザのスパイク蛋白であるハマグルチニン(HA)タンパク質を注射し、標的となる臓器を確認しました。
この結果、明らかにSARS-CoV-2ウイルスは非常に多くの臓器を標的とすることが示されました。
→ 腎、肝、腸、膵、卵巣、精巣、頭蓋骨・髄膜・脳
*多くの臓器とともに、頭蓋骨骨髄ニッチ(造血幹細胞が存在する特殊な微小環境)や頭蓋骨-髄膜結合(skull-meninges connection;SMC)にスパイク蛋白(緑)の集積が発見され、ウイルスの脳への新しい感染ルートと考えられました。デキストラン(紫)は血管を描出している。
COVID-19による死亡例の頭蓋骨の骨髄ニッチや髄膜にもスパイク蛋白が検出されました。
ヒト患者脳でPCR陰性であっても、スパイク蛋白は存在する
COVID-19患者27例の脳組織はほぼPCR陰性でしたが、免疫染色ではスパイクタンパク質は髄膜および大脳皮質に存在し、ウイルス粒子と比較して半減期が長いことが示唆されました。
患者の骨髄、髄膜、脳でさまざまな蛋白調節異常を認める
プロテオミクス解析により、COVID-19患者の骨髄、髄膜、脳において神経変性、好中球細胞外トラップ(NETs)、IL18パスウェー、PI3K/AKTシグナル、補体・凝固系カスケードに関わるいくつかの調節異常が認められました。
また、マウスモデルにSARS-CoV-2スパイクS1蛋白の静脈注射しただけで、頭蓋骨骨髄、髄膜および脳で幅広いプロテオミクス変化が引き起こされました(インフルエンザHAタンパク質では生じない)。これらの変化はCOVID-19に感染したヒトのサンプルで観察したものと同様でした。
スパイク蛋白を頭蓋骨骨髄に注入すると神経細胞傷害を生じる
スパイク蛋白を頭蓋骨の骨髄に直接注入すると、マウスの大脳皮質組織で急性および長期の神経細胞傷害(アポトーシスやアミロイド前駆蛋白APP発現の増加)が生じた。
インフルエンザHAの場合は何の変化ももたらさなかった。
ヒト患者頭蓋骨におけるスパイクタンパク質の検出
COVID-19で死亡した人の60%に、回復後長期間を経てもスパイク蛋白の蓄積が確認されました。
また、COVID-19以外の原因で死亡した患者では29%にスパイク蛋白が認められました。
RT-PCRによるウイルス検出限界を超えて、ヒト頭蓋骨に確認されたスパイク蛋白は、COVID-19の症状を長期的に発症させる原因である可能性がある。
ボリューム多くなってしまいましたが、いろいろ分かってきたみたいですね。。 (小児科 土谷)