院長先生のブログ
COVID-19 急性期合併症⑯
今回も「1)ウイルスの脳への直接感染」の話題です。
以前紹介したように、SARS-CoV-2ウイルスの感染手段であるACE2は脳内で視床や脈絡叢を除きほとんど検出されていません。このため、どのようにして脳に到達し神経症状を引き起こすのかは謎でした。
SARS-CoV-2ウイルスが細胞膜ナノチューブを使って神経細胞間を拡散することを報告した論文(Sci Adv.Jul 20,2022(doi.org/10.1126/sciadv.abo017))を紹介します。
エンドサイトーシス経路による感染が生じないACE2を欠く神経細胞(SH-SY5Y細胞)と、ACE2を発現する上皮細胞(Vero E6細胞)を共培養すると、ACE2を欠くSH-SY5Y細胞にも感染することが出来ることが分かりました。細胞膜ナノチューブと呼ばれる細胞膜から突き出す長細い管を使って、Vero E6細胞からウイルス粒子が拡散していました。さらに、細胞膜ナノチューブ内にはウイルスのタンパク質やRNA、ウイルスRNAを産生する二重膜小胞も確認されました。
以上から、SARS-CoV-2ウイルスはACE2を持たない細胞には細胞膜ナノチューブを介した拡散により侵入することが示されました。
実際にヒトの脳内でこの現象が生じているかはまだ不明ですが、ウイルスもあの手この手を使って脳へ侵入しようとしていることが伺えます。全く困ったものです。 (小児科 土谷)