院長先生のブログ
5cm以上
以前のブログで「Hands-Only CPR」について触れました。
今日はHands-Only CPRの2つのステップ(①119番通報する、②胸の中央を強く、早く圧迫する)の「②胸の中央を強く、早く圧迫す」の「胸の中央を強く」についての話題です。
ここでの「胸の中央を強く」は、胸骨が5cm以上沈む強さで胸骨圧迫することを意味しています。
何故、胸骨圧迫の深さは5cm以上なのでしょうか?
2005年以前のガイドラインでは、胸骨圧迫の深さは4cm~5cmとされていました。これは下図の39-50mmに相当しますが、胸骨圧迫の深さが50mm以上では更に蘇生成功率が増加するという多施設での調査結果があります。50mm以上の深さで胸骨圧迫をした5名では100%の除細動成功率が認められています(Resuscitation. 2006 Nov;71(2):137-45.)。この報告のようなデータを基に胸骨圧迫の深さは5cm以上が良いということになったのです。
では、胸骨圧迫の深さの上限は無いのでしょうか?
折角ですから、一歩進んでこの疑問点について考えてみましょう。
アメリカ・カナダのEMS(日本の救命救急士みたいなもの)ネットワークが報告したデータ(Crit Care Med.2012;40(4):1192-98)を見てみましょう。心停止患者にEMSが実施したCPRの胸骨圧迫の深さと胸骨圧迫率を記録したもので、18歳以上の院外心停止患者1029人について、生存退院率、ROSC、24時間生存率について検討しています。
この報告によると胸骨圧迫の深さが深くなるほど、生存退院率・ROSC率、初日の生存率が改善する傾向を示しています。ただし、胸骨圧迫の深さが50mmを超えると、それ以上の深さではあまりメリットは得られず、深さが60mmを超えるとROSC率は顕著に低下してしまいます。また、Hellevuoetらの小規模試験による報告によると2.4インチ(6cm)より深い胸骨圧迫により損傷を認めたとされています。
これらの事実から、6cmを超えて「力任せに」過度に深く胸骨圧迫をしないように勧告されているのです。
何事も「やり過ぎ」は良くない!という訳です。
脱線しましたが、重要なことは「心肺蘇生を行う際の胸骨圧迫は、胸骨が5cm以上沈む強さで押す」ことです。せっかくなので、明日は胸骨圧迫の速度について確認しておきましょう。 (小児科 土谷)