院長先生のブログ
軽症COVID-19(呼吸器感染)の脳への影響は?
COVID-19に伴う認知機能障害は、がん治療に関連した認知機能障害に似ているという仮説があります。そこで、軽症のSARS-CoV-2ウイルス呼吸器感染の脳への影響を調査した論文(Cell. June 16, 2022(doi.org/10.1016/j.cell.2022.06.008))を紹介します。
マウスとヒトの双方で、大脳白質に選択的に認められるミクログリア活性化を発見しました。マウスでは、軽症の呼吸器感染後、海馬における神経細胞新生の持続的な障害、オリゴデンドロサイトの減少、ミエリンの喪失が認められ、さらにケモカインCCL11(エオタキシン)を含む脳脊髄液サイトカイン・ケモカインの上昇が認められました。
CCL11の全身投与によって、海馬でミクログリア活性化と神経新生の障害が引き起こされることが確認され、long COVIDにより認知機能障害が持続するヒト患者でもCCL11レベルが上昇していました。
以上から、がん治療後とSARS-CoV-2感染後の神経病態は類似することがわかりました。軽度のCOVID感染であっても、認知機能障害につながる可能性があることが分かりました。
「持続感染」の病態と合わせると・・・・・・
① 軽度の呼吸器感染でも嗅覚神経組織での炎症が長期に持続する
② 嗅球を介して中枢神経に影響が及ぶ、すなわち大脳白質のミクログリア活性化・脳脊髄液CCL11(エオタキシン)等のサイトカイン・ケモカイン産生が起こる
*若年マウスに老齢マウスの血漿を暴露させると認知機能障害を起こすことができる
*血漿中のある物質が神経細胞新生・シナプス可塑性の低下や恐怖条件付けや空間学習・記憶を損なうことを示した論文(Nature volume 477, pages90–94,2011.)によると、その原因物質として同定されたのがCCL11とβ2ミクログロブリンであった
③ 海馬の神経細胞新生な障害、オリゴデンドロサイトの減少、ミエリンの喪失をきたす
④ ブレインフォグ・認知機能障害をきたす
まだ完全にbrain fogなどの認知機能障害の機序が解明されたわけではありませんが、朧気ながらその機序がわかりつつあるようですね。 (小児科 土谷)