院長先生のブログ
推定される、ウイルス持続感染による認知障害の機序
long COVIDにおける、ブレインフォグ・認知症などの神経・精神症状について、これまで触れてきましたが、簡単にまとめると・・
1.スパイク蛋白の神経毒性によるもの
2.サイトカインによる神経炎症の惹起によるもの
3.脳細胞融合によるもの
4.既存のAD病理の促進によるもの
です。今日は「既存のAD病理の促進によるもの」に関する論文(bioRxiv . 2022 Nov 23:2022.11.23.517706.)を紹介します。
SARS-CoV-2感染者、アルツハイマー病(AD)、SARS-CoV-2感染AD患者剖検例における前頭葉皮質Brodmann 第9野(BA9)と海馬の転写産物および病理学的特徴を比較した研究です。
転写産物をvolcano plotを用いて解析すると3群は概ね同じ傾向を示し、ADとSARS-CoV-2感染ADを比較すると、BA9および海馬の双方で顕著に類似していました。具体的には、神経炎症、TREM1(炎症反応に関与)、細胞老化などの経路が活性化し、逆に神経伝達物質の放出にかかわるSNARE活性化の低下が認められました。
病理学的には、ウイルスは血管内皮に局在し、ミクログリアは血管周囲に存在し、SARS-CoV-2感染AD患者では有意なミクログリア結節性病変の増加が認められました。HIF-1αはADの有無にかかわらず、SARS-CoV-2感染により著しく発現が上昇していました。
SARS-CoV-2感染とADにおいて、転写および細胞レベルで同様の神経炎症プロファイルが認められました。SARS-CoV-2感染が短期間に、転写および細胞レベルでAD類似の神経炎症パターンを再現し、ADの病態を促進する可能性が示唆されました。
高齢者の感染者が増えると、AD含む認知機能障害を訴える患者さんが増える可能性があるので、要注意です。
5類相当になったとはいえ、ウイルス自体が極端に変質している訳ではありません。日本のような超高齢化社会の国では、COVID-19から「脳」を守ることを念頭に置かなければなりません。 (小児科 土谷)