院長先生のブログ
男性にとってのHPVワクチン①
以前、HPVワクチンについて何回かに分けて取り上げましたが、今回はその続きです(随分と期間が空いてしまいましたw)。
日本ではヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは「子宮頸がんワクチン」として知られているため、女性の病気を予防するワクチンという認識が一般的だと思いますが、世界的には男性の病気も予防できるワクチンとして期待されています。
男性の病気でHPVが関与している病気は中咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなどの悪性疾患があり、良性疾患では再発性気道乳頭腫、尖圭コンジローマなどがあり、HPVが実に多くの病気の原因になっていることが分かっています。(2022年のデータになりますが)アメリカCDCによると、1年間のHPV関連がん患者のうち、女性:21400人、男性:15100人となっており、HPVが男性にも「がん」を発症させるウイルスであることが分かります。
How Many Cancers Are Linked with HPV Each Year? | CDC
HPVワクチンで予防できる男性の病気
1)中咽頭がん
男性のHPV関連がんで最も多いものです。実はこの中咽頭がんはアメリカでは子宮頸がん以上の新規発症患者数を叩きだしています。
How Many Cancers Are Linked with HPV Each Year? | CDC
リンク先のデータをみると、女性の子宮頸がんのうち、HPVにより発症したと推測される人数は11100人、HPV関連の中咽頭がん患者は14400人です。特に、HPV関連の中咽頭がんは男性に多く、先の14400人のうち男性は12100人を占めています。尚、中咽頭がん全体のうち、HPVが関与するものは、アメリカで約7割、日本では約半数程度とされています。
ちなみに、日本における咽頭のHPV感染率は約5%とされており、中咽頭がんを発症させるHPVの88%は16型です。ワクチンを接種するとHPV感染を88%減少させることができたとする報告もあるため、HPVワクチンの中咽頭がん発症予防効果が期待されています。
2)肛門がん
肛門がんの扁平上皮がんの80~90%程度にHPVが関与しているとされています。肛門がんの70%以上でHPV16型・18型が関与しているとされ、ワクチン接種による肛門がん発症リスクの低下が期待されています。ちなみに、2020年に4価ワクチンのガーダシルに肛門がんの適応が追加承認されています。
3)陰茎がん
陰茎がんの約3割にHPV、特に16型が関与しているとされています。
4)再発性気道乳頭腫
HPV6型と11型が主に関与しており、4価/9価ワクチンの接種で理論上は予防可能です。
5)尖圭コンジローマ
HPVが原因の性感染症です。HPVの5・6・11型の関与が指摘されています。2020年12月に4価ワクチンのガーダシルに尖圭コンジローマの適応が追加承認されています。
HPVが関与する男性の病気について触れさせて頂きました。実に多くの病気の発症にHPVが関与していることが分かります。続編は男性に対するHPVワクチン接種の意義について触れたいと思います。 (小児科 土谷)