院長先生のブログ
何故、子どもはウイルス性髄膜炎を起こしやすいのか?
ウイルス感染の場合、一般的に乳幼児は成人よりも脳炎や髄膜炎を起こしやすいことが知られています。勤務医時代を通じて、沢山の髄膜炎患者さんを診療して来ましたが、診療の際に感じていた疑問「何故、子どもはウイルス性髄膜炎を起こしやすいのか?」を解決してくれる論文(Sci Immunol. 2023 Oct 13;8(88):eadg6155. doi: 10.1126/sciimmunol.adg6155. Epub 2023 Oct 6.)を見つけたので紹介します。
長いのでこの論文で分かったことだけ抜粋しますが、脳の解剖学的構造は生下時と成熟時でほぼ変わらないものの、脳軟膜の血管からウイルスは脳内に侵入してくることがわかりました。
乳幼児マウスでは、この部位に存在するマクロファージ(最初に異物処理にあたる自然免疫細胞)の成熟度が低く、成熟マウスのマクロファージにはインターフェロンや種々のケモカインを産生して高い抗ウイルス能があることがわかりました。
そして、種々の実験結果から、この成熟度、機能度の高いマクロファージの存在の有無がウイルス性脳炎のなりやすさに大きく関係することがわかりました。
動物実験での研究でしたが、ヒトでも同様の結果を示唆する知見が蓄積されつつあり、乳幼児がウイルス性脳炎を起こしやすい原因のひとつと推察されます(西欧より東アジアの子どもたちにウイルス性脳炎が多い傾向がある原因はまだ解明されていません)。
子ども(特に年少児)は、自然免疫が未熟な状態です。
ウイルスの侵入により、一定の確率で脳炎や髄膜炎などに罹患する可能性があります。
子どもは感染症にかかったほうが免疫が得られていいということはありません。
罹患しないで済むなら、それに越したことは無いのです。
ワクチン接種などを含めた感染予防が如何に大切かを頭の片隅でも良いので、覚えておいて頂けると幸いです。 (小児科 土谷)